『神格、邪神たりえるが故の無謬』

この世全ての記録

 ……それは、最も初めに在った名だった。
 地もないく、水もなく、宇宙もない、真っ白な空間。
 そこに、あり得ざる存在がいる。

 “始まりの神”――アザトース。

 生まれながらにして、無限の闇を支配し、虚無すら従えた存在。
 彼のまどろみは時に“休眠”と呼ばれ、その一瞬の夢想が――世界に“旧支配者”をもたらした。
 だが、それすらもアザトースにとっては……

「――ふむ、少し変な夢を見たな」

 程度の寝言に過ぎない。
 けれど、その“寝言”を。その夢想を。
 ある愚かな人間が偶然拾い、解釈し、祀ってしまった――

「アザトース、はまあ良いとして……“混沌の核”に……“盲目白痴の魔王”……?」

 不躾にも、そんな名で語られることすらあった。

 ――滑稽である。

 そしてその“滑稽”を、アザトース本人は――

「――うむ。悪くない。いや、実に趣がある。だが“白痴”とは随分な言い草だな? んん……少し小突いてみるか?」

 割と楽しんでいた。

     ◆

 地に降りたその姿は、深淵の夜をそのまま形にしたような白髪と、禍々しき黒の光輪。
 細身でしなやかな体には、見えない威圧と美の双曲が宿っている。
 ――そして、六対の漆黒の翼。
 そのただ一振りで、天使すら羽根を折られる。

「おのれ! 貴様、本当に“邪神”か!? 神の面汚しよ!」

 怒号を上げる、ある世界の最高神の一柱。
 その手には神罰の槍、星辰を貫く聖なる一撃。だが――

「ふむ。まさか“堕ちた者”ごときにその名を汚されるとはな。では見せてやろう、“堕ちようがない神”というものを――」

 その瞬間、夜が裂けた。

「な」

 言葉が、出なかった。
 空も大地も逆巻き、全てが“原初の構造”へと強制的に還元される。
 いかなる理も、いかなる権能も、彼には及ばぬ。
 なにせ彼は、“概念”すら超えた『完全なる神』であるからだ。

 ……だが、彼はそれを乱用することはしない。

「……まあ、あまりやり過ぎてはつまらん。
 せっかく目覚めたのだ――少し、遊んでやろうではないか」

 そんな調子で、今日もまたどこかの世界に降り立つ。
 街に降り立ち、猫を撫でる。
 空を飛ぶ鳥に手を振る。
 人々の営みを見て、笑みを浮かべる。
 その様は、どこか“優しい神”にすら見える。
 だが、何か一つ気に入らなければ――

「……ほう。では問おう。
 この神に、“理不尽”を教えたのは、どの世界だったかね?」

 “その世界”は、明日にはもう地図に存在しないかもしれない。

 彼にとって、“邪神”という言葉など、ただの綾に過ぎない。
 天使が堕ち、悪魔となるように、神が堕ちて“邪神”となるのならば――
 アザトースは、それすら許されぬ“特異点”。
 堕ちることすらできぬ、絶対の始原存在。

 故にこそ――彼は邪神と呼ばれ、それでいて神であり続ける。

 笑いながら、怒りながら、興味本位で世界を弄び。
 それでもなお、すべての“創造”を愛している。

「――ふふ、では次はどこへ赴こうか。“遊戯の神”としてな」

 そして今日もまた。
 どこかの世界の空が、黒く染まる――

 その正体を誰も知らぬまま、“邪神”アザトースは、微笑とともに降り立つのだった。

     ◆

 ――それは、“奇跡”だった。

 神に祈れば声が届くと信じていた。
 正義があれば救いが来ると信じていた。
 星が瞬けば明日が来ると信じていた。

 それらが、すべて“まやかし”だと気付いたのは、空が黒く笑ったあの日だった。

 漆黒の光輪が、空に浮かんでいた。
 それは太陽ではなかった。
 月でも星でもなかった。
 ――ただ“眼”だった。
 世界を、見下ろす“誰か”の眼だった。

「……おい。今、太陽……消えたか?」
「いや、太陽……笑ってる……ッ!」

 恐怖という感情の臨界点を超えた時、人は美を見出してしまう。
 誰かが言った。「綺麗だ……」と。
 その声に、誰もが目を奪われた。

 そこにいたのは、“神”だった。

 彼は、笑っていた。
 愉快そうに。
 この世の摂理をひとつひとつほどくように。
 一歩、踏み出すたびに、地面の法則が変わる。
 空間が波打ち、時間が逆流し、理性がほどける。
 それでもなお、誰も目を逸らせなかった。

 まるで夢を見ているようだった。

 彼が瞬きをした。
 その瞬間、七つの都市が“消えた”。
 理由など、ない。
 原因も、ない。
 ただ、そうなっただけ。
 彼は言う。

「――ああ。少し、眩しかったから。気にしなくてよい。すぐ慣れる」

 民は叫んだ。

「なぜだ!? なぜ、我々にこの罰を!?」

 神は首を傾げた。
 美しき顔に浮かぶ、ほんの微笑み。

「罰……? いや、これは“遊戯”だ。卿らは、私の眠りを破った……ならば少しばかり、代償を払ってもらうだけのこと」

 そう、彼にとって“破壊”は、“起床の伸び”と同義だった。
 狂気が街に満ちていく。
 希望が泡沫のように崩れていく。
 そして最後に残るのは――

「……なんだよ、あれ……すげぇ、綺麗じゃん……」

 と、ひとり呟く少年の声だけだった。
 “邪神”の降臨は、人の心にすら、定義を与え直す。
 彼の足元に膝をついた民たちは、もう祈ってなどいない。
 ただ、彼を見つめていた。

 ――ああ、これは信仰ではない。
 これは、降伏だ。
 この世の全てが、彼の存在前に、ひれ伏したのだ。

「……今日の空は綺麗だな。では、少し歩こうか。どこか、面白いものでもあるとよいが」

 と、彼は言った。
 まるで観光のような調子で――

 こうして世界は、アザトースという“気まぐれな訪問者”に、正しく狂わされた。
 それは破壊でも、救済でもない。
 ただ、“そうあった”というだけの事象である。

【続】

あとがき

前に投稿した記録に載っていた、ここの“アザトース”様の一幕でございます。基本、アザトース様はチートです。何者も彼を倒す事なんてできません。そんな彼が起こす世界滅亡級の大災害は、まさに『悪意なき事象』そのもの。故に、倒す事なんて不可能である……と言う事です←

ただアザトース様のイラストが欲しいところです泣

AIで試しに描いたことがあるんですが、中々上手くいかず……泣

一応、アザトース様の容姿をこちらに載せておきます。

 ↓

・足元まである、宵闇を塗りつぶすような真っ白長髪。

・美しく整った顔立ち。

・雪白の肌。

・瞼の淵の長い睫毛。

・黒い眼球の中で輝く縦長の瞳孔をした翡翠の瞳を持った吊り長の目。

・薄く色づいている形の良い唇。

・すんと高い筋が通った鼻。

・身体の作りはとても良く『人体の黄金律』と呼べる美貌を持った男性。

・二本の黒角。

・陽炎のように揺れ鞭のように長くゆったりと伸びた、ふさふさな黒毛に包まれた尻尾。

・天使のような六対十二枚の黒い翼。

正に、私んところのアザトース様は魔性と神性を交えたような容姿をしてます。

良ければですが、絵師の方々に描いて欲しいなーって勝手に思っております……←

私も描けることはできますが……下手になって来たせいで自分が納得するクオリティが出せません泣

もし良ければ……と言う人がいれば、連絡ください。

以上、ユウギリでした。

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